代表がクライミングしに行こうかと言うもんで、三人、山へ行ってきました。天気予報では夕方からの雨ということでしたので、霧くらいなら無視して頑張っちゃうぞと期待しておりましたが、山道は川となりクライミングどころではありませんでした。ならハイラインの練習するかとなりまして、落ち方練習を徹底的にやってみることにしました。こんな機会でもとらえないと、ハイラインで練習などという気分にはなりません。
先日のHIGH on a WIRE 2010の時にトップロープ設定で皆さんにやっていただいたハイラインです。内容は動画の通りです。
雨でラインが滑る。
当たり前ですね。わかっていてもやっぱり、スリップします。とてもキケンでした。雨の中やったらどうなるかなんて、トライせずとも結果はわかっていたわけですが、実際、やってみなければわからないことも多かったです。いざトライ中に霧が出てきたら?そんな数少ない状況の想定もできたわけです。本当か?まー晴天もいいですが、荒天も気分が盛り上がっていいものでした。台風接近でなぜか気が高ぶるてな気分でしょうか。昔体験した、風速35mでのハイボールトライも似たような高揚感、実際体が浮く高揚感でした。
さっそく100m張ろうぜ、と控えめに言うJeremieにどのくらいの時間で張れるか聞く。20〜30分?今回はHIGH on a WIREの知識で張るのではない。私はあくまで人足である。とはいえ、男三人だけで張るとは!この道具で?どうみても道具がいくつも足りない。我らが代表は天才奇才の歳々だが、彼でも気づかない秘術がフランスにはあるのだろうか。 私はあくまで人足である。
と、Jeremieが固まった。
日本に手ぶらで来るからだろ!やっぱり道具が足りない。20mのハイラインを張る道具では100mは張れない。我々の禁断の秘術をあてにするMax。お前が何もいらないって言うから!さらに魔法のアイテムであるダイニーマスリングが、私が持ってきた一本という有様。スリング系は重いから持ってきたくないのだ。臭いし、消耗品ナンバーワンだし!Jeremieは、まさかこんな東の辺境に知識をもった人間がいると思っていないようで、さっそく諦め顔である。というか、いつもはTancredeがバックアップなどうるさいこと言いながら張るらしく、そんなに手慣れているわけではないようだ。とりあえず代表に電話する。もちろん平日の昼間である。でるわけがない。うーん。JeremieとTancredeの関係。私と代表の関係。うーん。私とMaxの関係。うーん。似ている。道具が足りない場合、我らが代表ならどうするか。目を閉じてみる。うーん。うなされる。そうだ!我々がスラックラインを始めたとき、クライミングの道具は腐る程あっても今みたいに便利な道具は充分に無かったじゃないか。今も充分ではないが。その場その場で新しい技を開発してきたじゃないか!必死でその情景を思い出す。眠くなるので目は閉じない。よし。このたった一本のダイニーマスリングで、急場をしのぐのだ!FRロゴがプリントされた無駄にたくさんあるクソ重いスチールカラビナがギラギラしている。こんだけの数揃えるのにどんだけ大変だったことか。くそ!とは心の中だけにする。Jeremieに日本の技術も大したもんだとおもわせるのだ。
代表は重い道具が大嫌いだから、いやクライミング界の大御所っぽい年と風貌だから、よくスリングを多用している。あの技を信じるのは実際に何度もテストを重ねたからこそだ。3トンの荷重を処理させるのだ。代表見ていてください。ヒロポン師見ていてください。スリング一本で、高価な道具2つ分の働きをしてみせます!よし、スリングを手にした私をJeremieは完全に疑っている!
この日は25mm30mのラインを限界までテンションかけて、とはいえ張力を計る機械がまだ入手できないので正確な?数字では表せませんが、人力で引けなくなる限界点まで張ってみました。特殊な器具を使わず、原始的にロープを使って引きます。通常ロープワークだけであれば問題なく引けるはずですが、現代スラックライン業界はテープです。平たいテープをどう引くのか、ここに我らHIGH on a WIRE“代表”のバカ力が発揮されます。ばかか、ではありませんよ。昨年のハイラインイベントで培った技術が活かされたうえ、新しい発想も駆使して、もう子供の遊びです。子供の遊びは企画と技術のバランスが良いと素晴らしい進化を遂げます。“代表”の頭の中はもう、企画と技術のミミズみたいなのが蠢いていて、ドロドロとハンバーガーパテを吐き出すように新しいアイディアを形にしていきます。クライミングだけでは収まらない、その独創性。とてもとても、エキスパートを自認していても到底埋められない差であります。
ギボンのイベントで、担当者さん及び副社長さんに動画を見てもらった。さすが業界のリーダー、本質を見ている人達なのだと感じた。誰もが触れることのできるハイラインの世界がある、そんな景色を見せたいイベント。反応から、それを十分感じてもらえた、そう思う。
ハイラインをトップロープで取り組むのは、我々HIGH on a WIREのおフザケが生んだシステムであり、画期的だとも思う。しかしその一方で、冒険という無限の可能性を著しく狭めてしまった責めも負う。過去の経験上、クローズドな世界に未来も将来もないが、その世界を切り拓く行為に苦痛が伴っていないかというと、である。苦痛を背負わない世界が来る前に、遊び場を失う前に、やっておかなければならなかった。あらゆる感情のせめぎあいの結果、動画を見せて良かったと思う。結果は安易に見えるかもしれないけれど、他人が考えるほど安易に動画を見せたわけじゃない。それなりの決意と覚悟をもって、